第一章【浣腸に感じてしまいました】中山優子(25歳)からの告白

浣腸という行為にこれほどの羞恥と快感を覚えてしまうなんて、この時の私はまだ知らなかった。

クリスマス間近の某日、冬の空気が、刃物のように肌を刺す夜だった。

仕事を終え、暖房の効かない公営団地の一室に戻った優子の身体を、鉛のような疲労が包んでいた。

壁際に置かれた留守番電話の赤いランプだけが、この静寂の中で唯一、生命を持つかのように点滅を繰り返している。

再生ボタンを押すと、鼓膜に馴染んだ、あの低い声が流れ出す。

『ご主人様』の声だ。

ご主人様――須藤の、感情の温度を一切感じさせない、低く、支配的な声。

「私だ、明日は休みだったな?仕事帰りで疲れていると思うが、いつものコンビニで待っている」

その声に、疲弊しきっていた身体の芯が微かに震え”きゅう”と甘く疼いた。

「時間は0:30、車で行くから、少し位遅れても問題は無い」

そして、ご主人様の声は、わずかにトーンを落とした。

「それと、今日は家から始めてこい、しっかりと5個、全部入れて来なさい、分かったな!」

電話は一方的に切れた。

部屋の静寂が、耳に痛い。

後に残されたのは、受話器から漏れる無機質な”ツーツー”と鳴る断線音と、優子の早鐘を打つ心臓の音だけ。

(家から……?5個、全部……?)

それは、これまでの遊戯とは一線を画す、新たな試練の宣告だった。

いつもは会ってから、ご主人様の目の前で、その冷たい視線を受けながら行われる儀式。

(それを、たった一人で、この寒い部屋で始めろというの?)

コンビニまでの、あの短い道のりが、今夜は果てしなく長い苦行の道になるだろう。

(そして、その身の内に爆弾を抱えたまま、夜の街を歩いてこい、と)

(できるわけ、ない……。コンビニまで、もたないかもしれない……)

だが、ご主人様の命令は絶対だ。

(どうして、今日に限って……?)

脳裏に、数日前の些細な会話が蘇る。

須藤の携帯に、知らない女性の名前から着信があった時、ほんの少しだけ、拗ねたような態度をとってしまった。

ご主人様は何も言わなかったが、その時の、温度のない瞳を思い出す。

(もしかして、あの時の……罰……?)

恐怖が背筋を駆け上る。

でも、約束を破れば、ご主人様はもう二度と会ってくれなくなるかもしれない。

その方が、もっと怖い。

その恐怖は、腹の中で爆ぜる苦痛への恐怖を、容易く凌駕した。

(やるしかない……)

あんまり時間もない。

冷え切った身体を温めるためにお風呂に入るのは諦めた。

ご主人様の指定は、ノーブラ、ノーパン、これが二人の間の暗黙のルール。

(約束は……でも、今日だけは……)

今夜のこの異常な状況と、窓の外で荒れ狂う寒風が、優子の決心を鈍らせる。

ほんのささやかな抵抗と、ご主人様への甘え。

(ストッキングの下に、一枚だけ……許してくださるはず……。その代わり、5個全部、ちゃんと言う通りにするから……)

自分に言い訳をする。

仕事から帰ったままの、一日の疲れが染み込んだ身体から、優子はスカートだけを無言で引き摺り下ろした。

上半身は、厚手のタートルネックのセーターが、まだ社会的な仮面のように優子の首元までを堅く守っている。

だが、腰から下は、あまりにも無防備で倒錯的だった。

その下で肌に張り付くのは、薄い黒のストッキングと、殆ど紐だけと言っていい、レースの縁が心許ない小さなパンティーだった。

最後にコートを羽織れば、その防寒着とは名ばかりの歪な姿は、厚いウールの闇に葬られる。

ボタンを一番上まで留めてしまえば、外見は、街の雑踏に紛れる、どこにでもいる仕事帰りの女に過ぎない。

その完璧な偽装の下で、優子の肉体は、来るべき辱めのための供物として整えられていた。

そして、引き出しの奥から、箱に入ったグリセリン浣腸を取り出し、自らの手で身体の奥深くへと埋め込んでいく。

冷たいプラスチックの先端が身体に入り込み、粘膜を押し広げる感覚。

一つ、また一つと、熱い液体が腸内へと注ぎ込まれていく。

五つ目を全て入れ終わる頃には、腹の奥底で何かが蠢き始め、グルグルと不穏な音を立て、静かに覚醒するのを感じた。

冷たいコンクリートの階段を下りる頃には、腹の中でマグマが蠢くような、鈍い疼きが始まっていた。

外の空気は、刃物のように冷たい。

団地を背に、コンビニに向かう。

外気に身を晒すたび、寒さが腸を刺激し、その疼きは明確な苦痛へと変わっていく。

(大丈夫……コンビニまでは、歩いてたった3分なんだから……)

だが、一歩、また一歩と、足を踏み出すごとに、腹の中の液体が重力に従って下腹部へと落ちてくる。

歩く振動が、腸を直接揺さぶった。

そして、来た。

一つ目の信号機の手前で、内側から熱い鉄の拳で抉られるような、第一の波が、腹の底から突き上げてくる。

最初の交差点。

赤信号が、無慈悲に優子の行く手を阻む。

普段は人通りのない深夜の道が、今夜は何故か、車の往来を激しく感じる。

車のヘッドライトが闇を切り裂くたび、その光に自分の醜態が暴かれるような錯覚に陥った。

信号のボタンを押し、青に変わるのを待つ間、腹が”グルグル”と悲鳴を上げた。

「うっ……!」

声にならない呻きが漏れ、優子は膝から崩れ、思わず、その場にしゃがみ込む。

咄嗟にガードレールに手をつき、身を屈めて激痛の嵐が過ぎ去るのを待った。

(出したら、怒られる……ご主人様を、がっかりさせてしまう……我慢しなきゃ……!)

その一心だけが、決壊寸前の肉体をかろうじて支えていた。

信号はとうに青に変わっているのに、立ち上がれない。

杖をつく老婆のように腰を深く曲げ、おぼつかない足取りで横断歩道を渡った。

点滅する信号機の灯りが、苦痛に歪む優子の顔を照らし出す。

アスファルトに染みた自分の影が、惨めな獣のように見えた。

轢かれなかったのが、奇跡のようだった。

道の暗がりで、荒い呼吸を繰り返す。

一度、痛みの山場が過ぎると、しばらくは凪が訪れることを、経験で知っていた。

その隙に、急いで歩を進める。

もう、目の前にコンビニの明かりが見える。

ご主人様の待つ、あの車も。

その安堵が、油断を招いた。

目的のコンビニの、煌々とした明かりが視界に入った瞬間、安堵からか、第二の、そして今夜最大の波が、容赦なく優子を襲う。

国道沿いの、車の往来が激しい歩道。

ここで蹲るわけにはいかない。

腰を曲げて歩けば、不審に思われるだろう。

通行人の訝しげな視線を感じたが、もはや羞恥心さえ麻痺していた。

すぐそこにあるバス停のベンチまでが、まるで砂漠のオアシスのように見えた。

そこまで、あと数メートル、その距離が、絶望的に遠い。

(だめ……もう、無理かも……)

真冬にも関わらず、脂汗が額を伝い、顔がてらてらと光り、視界が滲む。

腹の痛みは、一向に引いてくれず、内側から肉を食い破ろうとする獣が暴れ狂っていた。

ベンチに崩れるように座り込み、どれくらいの時間が経っただろうか。

通りかかった二人の若者が「大丈夫ですか?」と声をかけてくれたが、優子は返事すらできなかった。

今までで一番の苦痛、それでも、漏らしてはいない。

その事実だけが、優子の最後のプライドだった。

ようやく痛みが和らいだ時、優子は亡霊のような足取りでコンビニの自動ドアをくぐる。

見慣れた背中。

ご主人様は雑誌コーナーで立ち読みをしている。

店内には、他に客はいない。

ご主人様がこちらに気づき、その昏い瞳が優子を射抜く。

「腹は大丈夫か?まさか、出してはいないだろうな」

心配するような言葉とは裏腹に、その声には品定めをするような冷たさが宿っていた。

「……はい。少し、辛いですけど……大丈夫、です」

掠れた声で答えるのが精一杯だった。

ご主人様のために耐え抜いたという、歪んだ達成感が、疲弊した心を微かに満たした。

「じゃあ、いつもの所に先に行ってなさい」

二人は何も買わずに店を出た。

腹の痛みに堪えながら公園へ、とぼとぼと歩いていく。

優子の数歩後ろを、まるで獲物を追い立てる狩人のように歩いてくる。

(少しでも漏らしたら……、気付かれてしまう……)

その手には、いつもの遊び道具が入った、黒いボストンバッグが握られていた。

行き先は、団地の外れにある、いつも私たちが使う、打ち捨てられた公園の公衆便所。

壁一面の落書きと、天井から垂れ下がる蜘蛛の巣が、二人のための荒廃した祭壇を飾っていた。

女子トイレへ向かおうとする優子の腕を、ご主人様が掴み、素っ気ない声がそれを制した。

「そっちじゃない。こっちだ」

有無を言わさず引きずり込まれたのは、男性用の一つしかない個室、そこは世界から隔絶された、二人だけの密室と化した。

そこは、アンモニアの臭いが立ち込め、清掃の行き届かない、薄汚れた場所。

“カチャリ”と扉に鍵がかけられた瞬間、閉塞感に煽られ、括約筋が限界を訴えた。

「もう……我慢、できません……。だ、出しても、いいですか……?」

懇願する優子に、ご主人様は氷のような声で言い放つ。

「ダメだ。優子はここまで楽しんできたかもしれんが、私はまだ、全く楽しんでいないんだぞ」

否定の言葉と共に、唇が乱暴に塞がれた、冷たいご主人様の唇。

コートのボタンが引きちぎられんばかりに外されていく。

セーターの中に、ご主人様の冷たい手が侵入し、ブラジャーの存在に気づいた。

「……どういうことだ?ブラジャーを着けてるじゃないか。ということは、下もか?」

ご主人様の右手は、ストッキングの上から、優子のささやかな抵抗の証である小さなパンティーの紐を鷲掴みにし、肌に食い込むほどきつく吊り上げた。

吊り上げられたパンティーが腹部を圧迫し、新たな痛みと便意の波を呼び起こす。

「約束、破ったな?」

「だっ……て、今日はすごく寒いし、家からだったし……スカートだけ脱いで、そのまま……」

言い訳は、ご主人様の前では意味をなさない。

「そうか……。分かった。じゃあ、後ろを向け」

言われるがままに背を向けると、麻縄がセーターの上から、きつく身体に巻き付けられていくのが分かった。

「えっ、ここで縛るの!?本当に、もう、出ちゃう、我慢できないよ!」

両腕が背中で拘束され、身動き一つ取れなくなる。

「優子が約束を破った罰だ。今日は、そのままの格好で出すんだ。いいな」

お腹の痛みと、ストッキングの上から排泄するという、未知の羞恥。

「このままはイヤ……!無理です……!それだけは……!」

その想像を絶する屈辱に、身体が震える。

「……オムツに、してください……お願いします……」

優子の目から、涙が、堪えきれずに頬を伝った。

「ダメだ」

その一言で、諦念が優子の心を支配した。

ご主人様の決定は、覆らない。

バッグから取り出されたのは、四本の仏壇蝋燭。

ライターの火が、その先端に灯される。

「これを使うと、『我慢できる』と言っていただろう」

かつて優子が漏らした言葉を、ご主人様は覚えていた。

蝋燭の熱い痛みは、腹部の苦痛を忘れさせる。

倒錯した治療法。

「こっちに、ケツを向けろ!」

言われるがままに、お尻を突き出した瞬間、熱い雫が落ちた。

「熱っ……!」と思わず声が出た。

今日のパンティーは、臀部を覆う布地がほとんどないTバック。

蝋燭の雫がもたらす”チクチク”とした熱い痛みが、布地のない素肌を直接灼き、不思議と下腹部を疼かせた。

(どうして……こんなに酷いことをされているのに……感じてしまうの……?)

その針で刺すような痛みが、腹部の苦痛を上書きし、体の奥底で燻っていた快楽の火種に、静かに火を点けた。

無理なこと、辛いことをされるほど、ご主人様のことが好きになっていく。

苦痛と快楽の狭間で、優子の意識は混濁していく。

「ほら、見ろ。黒いストッキングが、蝋で真っ白になったじゃないか」

ご主人様は、床に散らばった白い蝋の欠片を指し示した。

その声で、我に返る。

振り返ると、ご主人様は紫煙を燻らせていた。

その姿は、地獄の支配者のように、絶対的で、美しかった。

「タバコを一本吸い終わるまで、今度は脚を広げて床にしゃがめ」

放心状態で、言われるがままに冷たいタイルの上に座り込む。

開かれた脚の間に、再び熱い蝋が落とされた。

「こっちも真っ白にしてやる。パンティーを穿いてるから、熱さは感じないだろう?」

ご主人様はファスナーを下ろし、まだ柔らかい自身のそれを、優子の口元へ突き出した。

「コレでも咥えてろ」

蝋の熱さ。

腹の痛み。

先端から滲み、少ししょっぱくて、口内に広がる、ご主人様の肌の味。

三つの感覚が混じり合い、優子の思考を奪っていく。

(やっぱり、ご主人様だ……私の、愛している人……)

口の中で、ご主人様の分身が徐々に熱を帯び、硬度を増していく様は、まるで生命の神秘に触れているかのようだった。

なんだか、それがとても愛おしく思えた。

「腹と蝋燭と口。どこに集中すればいいか、分からなくなってきた頃だろう?」

ご主人様はタバコの火を壁で消すと、火の灯ったままの蝋燭を、優子の一番敏感な場所の上に、そっと横たえた。

「上から垂らすより、直接置いた方が熱さが伝わるな」

布地一枚を隔てた熱源が、じわりと肌を温める。

ストッキングとパンティーのおかげで、火傷するほどの熱さではない。

だが、「これを落としてはいけない」という緊張感が、優子の身体を硬直させた。

その時、腹の奥底で”グル、グル、グルルルルル”と、最後の獣が咆哮を上げた。

「あっ……もう、ダメ……!本当に、出る……ダメッ!」

その叫びと同時に、狭い個室の中に異臭と汚らしい破裂音が充満した。

「ブッ、ブリュッ……ブブブッ……ブリュ、リュリュ……」

堰を切った濁流が、ストッキングの中で熱く、じわじわと広がっていく。

床についた尻から、ドロドロとした生温かい感触の半固形の汚物が行き場を失い、臀部全体を塗り潰していく。

その温かさと、すべてを解き放った開放感が、羞恥を凌駕するほどの快感となって、優子の脳を痺れさせた。

優子の意思とは関係無く、何度も何度も、汚物が溢れ続けている。

「フフフ……いっぱい出たな。どうだ、パンティーを穿いたまま出すのは。小さい頃を思い出したか?」

ご主人様の嘲笑が、快感の霧に酔う優子の耳朶を打つ。

「今日は、私もたっぷり出そうだ。ちゃんと全部、飲むんだぞ」

両手で頭を固定され、喉の奥を、限界まで硬く膨れ上がったそれが激しく蹂躙する。

熱い奔流が口内を満たし、そのあまりの量と、いつもより格段に濃い味に、ご主人様の興奮が伝わってきた。

すべてを飲み干し、汚れたそれを舌で清め終えると、ご主人様は長い、深い口づけをした。

長い、ディープキス。

「……すごく気持ち良かった。優子、お前は本当に最高だ。良い女だ」

糞尿の臭気と、精液の味が混じり合う、背徳的なキス。

(嬉しい……。やっぱり、ご主人様が一番……)

汚辱の底で、優子は至上の幸福を感じていた。

「さて、その糞まみれのストッキングとパンティーはどうする?家までその格好で帰るか?」

汚物の塊をどう処理すべきか迷っていると、ご主人様が冷たく言った。

「優子が、ここで何をしているか、誰かに知られてもいいなら、そこに置いていきなさい」

それは、命令だった。

「……隣の女子トイレで、脱いできます」

隣の女子トイレで汚れた下着とストッキングを脱ぎ、膨大な量のティッシュで身体を拭う。

優子は、自らの最も恥ずべき残骸を、女子トイレの隅に隠すように置き去りにした。

下半身が丸出しになった私に、ご主人様は黙ってコートをかけてくれた。

遊びの後のご主人様は、いつも通り寡黙だった。

コンビニまで、ただ黙って手を繋いで歩く。

この沈黙の時間こそが、優子にとっては最も愛おしい瞬間だった。

(本当は、この時間が、一番好きなんだよ……)

でも、その言葉は、どうしても言えない。

車で団地の前まで送ってもらい、昇り始めた太陽の光を浴びながら、ご主人様と別れる。

「次の休みの連絡は、またメールで送りなさい。じゃあ、おやすみ」

お別れのキス、先程とは違う、乾いた味がした。

走り去る車のテールランプを見送りながら、優子は一人、夜明けの寒さの中に立ち尽くす。

(もっと……ずっと、一緒にいたかった……)

その言葉は、喉の奥で凍りつき、決して音になることはなかった。

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