名前:畑野安香里(仮名)
年齢:25歳
職業:元アナウンサー
スリーサイズ:T157cm/B84cm/W60cm/H90cm
元アナウンサー、畑野安香里(はたの あかり)、25歳。
かつてはその声で人々を魅了したが、不祥事をきっかけに全てを失う。
現在は再起を夢見ながら、”ご主人様”と慕う男の元で、心身ともに尽くす日々を送る。
身体に刻まれた「奴隷の証」と、幾度もの苛烈な調教によって植え付けられた絶対的な服従心。
彼女はそれを屈辱ではなく、愛されるための勲章と信じている。
“女優”という新たな舞台を与えられた彼女が、その先に掴むのは栄光か、それとも更なる奈落か。光と影の間で生きる、一人の女の壮絶な物語。
鳴り物入りで飾られたはずの女優デビュー。
しかし、現実は甘くなかった。
与えられた仕事は、深夜枠の30分ドラマに、脇役として出演する一本のみ。
元アナウンサーという経歴からバラエティ番組に呼ばれることもあったが、いずれも一度きりの出演で終わってしまう。
女優としてもタレントとしても評価は芳しくなく、テレビに呼ばれる回数は目に見えて減っていった。
一人で過ごす時間が増えるにつれ、安香里の心には、これまで見ないようにしてきた澱が、静かに溜まり始めていた。
(こんなはずじゃ、なかったのに……)
安香里の期待とは裏腹に、サークルの会員たちからの呼び出しだけは、日を追うごとに増えていく。
仕事のスケジュールが空いている日は、毎夜のように会員の誰かしらのマンションへ呼び出され、ただひたすらに肉便器として扱われる日々。
呼び出される日は、私の体調など関係なく、生理であってもアナルと口でご奉仕させられる性欲処理の日々。
そこには、かつてご主人様との間にあった倒錯的な愛情の欠片すら存在しなかった。
一人暮らしを始めてからの日々は、皮肉にも、安香里の心を蝕んでいたご主人様の洗脳を、少しずつ解き放っていった。
(こんな生活、いつまで続くのだろう?)
(私が本当に憧れた女優という職業は、こんな姿だったの?)
(ご主人様は、本当に安香里のことを愛してくれていたのだろうか?)
答えの出ない問いが、夜ごと彼女の心を苛む。
そして、安香里は一つの結論にたどり着いた。
(結局、ご主人様にとっての安香里は、都合のいい性欲処理のお人形でしかなく、愛なんて最初からなかったんだわ……)
数ヶ月後。
その夜も、ご主人様からの呼び出しがあった。
終わりを決心した安香里は、自らの気持ちを打ち明ける覚悟を固めた。
いつものように、ご主人様の命令から屈辱的なプレイが始まろうとした、その時。
安香里は命令に背き、ご主人様の目の前で静かに正座した。
緊迫した空気が、部屋を支配する。
「……ご主人様。今日限りで、この関係を終わりにしてください。サークルとの契約も、全て解消させてください」
下を向いたまま、震える声で絞り出した言葉。
ご主人様は、顔色一つ変えずに、ただ黙ってそれを聞いていた。
(怖い……顔が見れない……でも、ここで言わなければ、私は一生、このまま……)
安香里の、短く、たどたどしい懇願が終わると、ご主人様は静かに口を開いた。
「……お前の言いたいことは理解した。だが、納得はしていない」
その言葉に、安香里は何も答えることができなかった。
なぜか、涙だけが止めどなく溢れてくる。
(ああ、やっぱり、引き留めてはくれないんだ……)
ご主人様は無言で立ち上がり、ジャケットを羽織ると、背中を向けたまま言った。
「せっかく掴んだ女優業だ。しっかりと続けるんだな」
扉が閉まる直前、安香里は感じていた。
ご主人様の背中から滲み出る、底知れない怒りの気配を。
(これで、終わり。でも、きっとどこかで見ていてくれるはず。立派な女優になった私を、いつか……)
あの日以来、ぱったりと誰からも呼び出されることはなくなった。
普通の、しかしあまりに退屈な日常。
時間を持て余す日々が、約一ヶ月続いた頃だった。
久しぶりに、ご主人様から電話があった。
「週末、軽井沢の別荘へ来なさい」と。
当日の昼過ぎ、珍しくマネージャーの渡辺が車で迎えに来た。
道中、何度も別荘へ呼ばれた理由を尋ねたが、渡辺は「私も良く知らないんですよ」と繰り返すだけだった。
(もう、サークルの所有物という契約は終わったはず……なのに、なぜ……)
一抹の不安を抱えながら、車は高速道路を降り、木々が鬱蒼と茂る別荘地へと入っていく。
日が落ちかけ、ヘッドライトが深い森を照らし出す。
周囲には他の建物一つ見当たらない。
「渡辺さん、ご主人様の別荘は、こんな奥にあるんですか?」
「ええ。私も数回しか来たことがなく……あ、そろそろ到着です」
渡辺が指さした先には、闇の中に浮かび上がるように、巨大な洋館が佇んでいた。
(別荘……というより、お屋敷……)
車が門に近づくと、それはまるで二人を誘うかのように、自動でゆっくりと開いた。
玄関で車を降り、渡辺にエスコートされて中へ入る。
通された広大なリビングには、ご主人様が一人で立っていた。
「おっ……お久しぶりでございます」
(気まずい……顔を合わせられない……)
目を伏せる安香里に、ご主人様は、まるで他人に話しかけるような、よそよそしい口調で言った。
「安香里、久しいな。元気だったか。今日は遠いところを、わざわざありがとう」
ご主人様は続けた。
「あの日、お前の口から出た言葉は、心の底からの本心だったのだろう。あれ以来、私も考えた。まだ、正式な返事をしていなかったな」
忘れていたはずの不安が、再び安香里の心を侵食し始める。
「今夜で、契約を正式に解除してやろう。今夜が過ぎれば、明日からは晴れて普通の女の子だ」
(え……?まだ、契約は続いていたの……?)
この一ヶ月間、自由になったと思っていた自分が、まだご主人様の掌の上で踊らされていたに過ぎなかったのだと知り、安香里は呆然と立ち尽くす。
「どうだ、覚悟は決まったか。心の整理がついたら、廊下の先にある地下室へ来なさい」
そう言うと、ご主人様は早々に部屋を出て行ってしまった。
一人残された安香里に、渡辺が声をかける。
「……そろそろ、地下室へ行かれた方がよろしいかと。正直に申し上げますと、私はこの状況を、何度も見てきましたので……」
(何度も……見てきた……?)
その言葉の意味を、安香里は考えたくなかった。
覚悟を決めたはずなのに、足が鉛のように重く、一歩も前に進めない。
心ではわかっているのに、身体が、本能が、この先の恐怖を拒絶しているのだ。
渡辺に腕を引かれ、肩を抱かれるようにして、安香里は長い廊下を、地下へと続く階段を、ゆっくりと下りていった。
(ああ、そうだ……ご主人様に初めて会った日も、こんな風だった……)
長い廊下を歩く間、つらく、けれど確かに幸せだった日々が、走馬灯のように頭を駆け巡る。
この後に訪れる時間を、安香里は知る由もなかった。
それが、彼女の人生で最も長く、暗い夜の始まりになるということを――。
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