ファミレスを後にした私は、夜の国道を走る車の中で、須藤さんの残した声の余韻に包まれていた。
(……どうして、こんなに胸が熱いんだろう。)
あの人の声、低くて、穏やかで、まるで私の全てを優しく包み込んでくれるようだった。
年齢も離れているのに、怖くない、むしろ、安心する。
ファミレスでの会話、私はほとんど言葉を失っていた。
須藤さんはただ、静かに耳を傾けてくれた。
私の仕事の愚痴も、団地の寂しさも、全部。
そして、最後に「また会いたいね」と言ったときの、あの微笑み。
優しいのに、どこか底知れぬ深さを感じさせる瞳。
あの瞳に、私は吸い込まれそうになった。
須藤さん……あなたは、きっと、私の暗い部分も、受け止めてくれる。
だから、次に会うときは……もっと、深い話をしたい。
私のトラウマも、歪んだ欲望も、全部。
あなたに、預けたい、あなたに、蹂躙されたい。
部屋のベッドに倒れ込みながら、私は初めて、須藤さんの名前を胸の内で繰り返した。
それは、祈りのように甘く、背徳の予感に満ちていた。
あの夜、私はまだ知らなかった。
この出会いが、私をどこまでも深い、甘美な深淵へと連れていくのかを。
夜が明ける直前の、世界が藍色に沈む時間帯。
私の脳裏には、須藤さんが、この世に生を受けた日の、静謐な情景が、まるで遠い神話の断片のように浮かんでは消えていた。
幼い頃のトラウマが、男性からの視線を遠ざける仮面のように私の日常を影のように覆っていた。
私にとって、人生とは常に、拭い去ることのできぬ泥濘を歩むようなものだった。
幼少期に刻み込まれた、あの中年男性による悍ましい蹂躙。
それは、私の精神に、決して癒えることのない深い裂傷を残した。
あの団地の薄暗い階段で、中年男性の湿った視線と、這うような指先に犯された記憶。
中年男性の視線は、私にとって常に、肉体を食い破ろうとする獣の眼光であり、防衛本能として選んだ控えめな装いは、自分という存在を社会の闇へ、ひっそりと埋葬するための防壁に過ぎなかった。
クローゼットの中に眠る、流行の過ぎ去った数着のスカートすら、流行の残滓に過ぎず、私の肌を撫でた回数は、指で数えるほどしかなかった。
しかし、運命の歯車が音を立てて回り始めたあの日、私は変容を選んだ。
給与日の週末、池袋の喧騒の中に身を投じた私は、自分でも驚くほど大胆な決意を胸に、煌びやかな光を放つショップへと足を踏み入れていた。
それは、自分を「女」へと変貌させるための、密やかな儀式への序曲だった。
大人びた官能を纏う下着を揃える棚の前で、店員の言葉にただ頷き手に取った。
それらは、私にとって、これまでの地味な自分を葬り去り、新しい自分へと生まれ変わるための、聖なる祭装であった。
慣れぬ場所の洗練された、それでいて冷徹な空気感に、私はショップ店員に導かれるまま、身を委ねるようにし、未知なる官能の供物となるべき衣類を買い揃えた。
薄い布地に包まれたブラジャーと、ほとんど紐のようなパンティー、そして膝上丈のミニスカートとブラウス……
寄り道もせず、デパートを後にした頃には、胸の奥で熱い疼きが芽生えていた。
その日が近づくにつれ、私の精神は、期待という名の熱病に侵されていった。
胸の奥で、甘く疼く期待と、底知れぬ恐怖が交互に波打っていた。
(須藤さん。今日、あなたの生まれた日を、私は知っている。この身体で、あなたに触れられるために、私はここまで来た。痛くても、怖くても……それが、私の捧げられる唯一のもの。)
そして、運命の当日は、朝の光さえも、胸を締め付けるような狂おしい緊張を伴って訪れた。
当日の朝、鏡の前で、震える手で新品の下着を身に纏う。
下着の肌触りが、未成熟な肉体に、これから始まる蹂躙への予兆を刻み込んでいく。
ブラジャーのレースが乳首に食い込み、すでに硬く尖った蕾を優しく締めつけた。
パンティーの薄い布地は、秘裂に沿ってぴったりと張り付き、歩くたびに微かな摩擦が甘い疼きを呼び起こした。
ブラジャーのホックが背中で小さく音を立て、パンティーのレースが秘部にそっと食い込む感触に、すでに膝が微かに震えた。
私は、いつもの残業という日常を捨て、逃避するように彼のマンションへと車を走らせた。
途中、人気のない公園の駐車場で、私は地味な日常の服を脱ぎ捨て、この日のために用意した「供物」としての装いへと着替えた。
震える指でミニスカートのファスナーを上げ、ブラウスのボタンを留めていく。
薄暗い車内のライトの下、ぎこちない手つきで眉を引く。
唇に紅を差す指が震え、息を何度も深く吐いた。
その時、鏡に映ったのは、見慣れぬ、どこか退廃的な香りを纏った、見知らぬ女の姿だった。
(ここまで来たのだから……喜んでくれるはず。須藤さんの瞳に、私のこの姿がどう映るのか。それだけを想うだけで、身体の芯が熱くなる。)
そう自分に言い聞かせ、再び車を走らせた。
ハンドルを握る手には、尋常ではないほどの手汗が、粘り気を持って纏わりついていた。
近くのコインパーキングに車を止め、踵の高い靴に履き替えると、息が詰まるほどの鼓動が全身を支配した。
その一歩を踏み出すごとに、鼓動は耳元で爆ぜるように鳴り響き、額には冷たい汗が、真珠の粒のように滲み出した。
マンションのロビーの鏡に、ぼんやりと浮かび上がった自分の姿は、まるで別人のように淫らで、儚く、壊れかけた花のように映っていた。
オートロックの暗証番号を打つ指先が、一桁打つごとに激しく震えた。
エレベーターを待つ時間、そして、九階へと昇るわずかな間が、永遠の苦行のように感じられた。
静寂に沈む長い廊下に響く、ヒールのコツコツという音だけが、自分の心臓の鼓動と重なり、死の行進のように響き渡る。
玄関前に立ち、震える指で携帯を取り出し、須藤さんへと電話を掛けた。
「プルルルル、、、プルルルル、、、プルルルル、、、」
死の宣告を待つ囚人の時間のように、永遠に感じられた。
三度のコールの後、受話器越しに、あの低く、落ち着いた支配的な声が響く。
「どうした?急に電話を掛けてくるなんて」
「い、今……玄関の前に、います……ごめんなさい、突然……」
「……」
返事は、沈黙によって返された。
言葉を紡ぐことすら、私には困難だった。
沈黙の後、鍵が開く無機質な音。
運命を招き入れるようにドアがゆっくりと開き、須藤さんの姿が現れた。
彼の瞳には、私の覚悟が、すべて写り込んでいるように感じられた。
それは、何も言わずとも、全てを見透かしている支配者の瞳だった。
「よく来たね、入りなさい」
私は視線を落としたまま、唇を震わせた。
(怒られるかもしれない……顔を見ることさえ、許されないかもしれない……)
「何も言わないんじゃ、分からないぞ」
恐怖に身を竦ませる私を、彼の冷徹な、しかし拒絶のない声が、逃げ場のない場所へと誘う。
彼の声は冷たく、重く、まるで小学生の頃の担任の叱責のように私の記憶を抉った。
「今日……お誕生日だったから……」
私はようやく、絞り出すように言葉を紡いだ。
「そうか。覚えていたんだね。自分でもすっかり忘れていた。嬉しいよ」
その「嬉しい」という、わずかな温度を孕んだ響きが、張り詰めていた私の胸を優しく、しかし残酷に溶かした。
凍りついていた恐怖が、微かな熱を帯びて溶け出していく。
「さぁ、上がって」
私はようやく顔を上げた。
その瞬間、彼の瞳の奥に、一瞬の綻びを見た気がした。
それは、全てを見透かしているような、静かな微笑みが浮かんでいた。
(気付いてる……何もかも……)
須藤さんは、何も知らない振りをしているだけで、私の内なる狂気も、覚悟も、全てを既に把握しているのだと、直感的に理解してしまった。
リビングに案内されるも、私はソファーの前で、石像のように立ち尽くすことしかできなかった。
彼は背後で平然とコンロに火を入れ、コーヒーを淹れ始める。
その静謐な日常の動作が、かえって、運命の鎖のように私を縛る。
「今日は珍しいね。ミニスカートを穿いているなんて。すごく可愛いくて、綺麗だよ」
その言葉は、私の魂を甘美に蹂躙した。
(……嬉しい。本当に、嬉しい。勇気を出して、良かった……この身体を、捧げられるなら)
「なんだ、立ったままでいないで。そこのソファーに座っていなさい」
命令は、慈愛の形を借りた支配であった。
脚を曲げることさえ許されないほどの強張りに、私は抗う術を持たなかった。
身体が硬直し、ただ頷くことしかできない。
「う、うん……大丈夫……」
コーヒーの香りが、部屋の空気を重厚に満たしていく。
須藤さんが近づき、カップを差し出す。
「ほら、座って、コーヒーでも飲みなさい」
その言葉に従い、ソファーに身を沈めた。
彼が隣に腰を下ろすと、逃げ場のない緊張が私を襲い、まるで雷に打たれたかのように、激しく痙攣した。
「でも、どうして今日はこんな可愛い格好で来たんだい?」
緊張で小刻みに震え、皮膚の表面には、冷たい汗が真珠のように浮かんでいる。
コーヒーの香りが鼻腔をくすぐる中、須藤さんの左手が、ミニスカートの裾から、露わになった太腿へと、滑らかに、しかし逃れようのない重みを持って這い上がってきた。
肉体への侵入。
その瞬間、私の身体がビクリと跳ね、息が、浅く乱れた。
(ああ……っ、身体が……勝手に震えてしまう……!)
全身の毛穴が、恐怖と歓喜で一斉に開いた。
指先の体温が、躊躇なくスカートの裾を捲り上げ、肉の温もりを帯びた剥き出しの肌を這い上がっていく。
小刻みに震える太腿の内側を、指がなぞるたび、秘部が熱く疼き、愛液の予感がじわりと広がった。
「緊張しているのかい?身体が震えてるよ」
低く、落ち着いた声。
(悟られている……私の全てを。この震えも、熱も、秘めた想いも……最初から分かっていたのね。)
その事実は、恐怖以上に、抗い難い悦楽となって私の脳内を蹂躙した。
返事はできなかった。
拒絶する術を持たぬ私は、ただ、支配されるという自らの渇望に従い、その蹂躙を受け入れることしかできなかった。
ただ、このまま蹂躙されることを、魂の底から望んでいたのだ。
右手に持ったコーヒーカップをテーブルに置き、両腕で逃れられぬ愛撫の檻へと引き寄せた。
そして、無言のまま、私の唇を奪い去った。
生まれて初めて、愛する者に唇を奪われる感覚。
唇が重なり、彼の熱い舌が、私の内なる聖域へと侵入してくる。
情動に支配された、狂おしいまでの接吻。
唇を押し広げる舌が、私の口内に入り込み、口腔を犯すように絡みつく。
コーヒーの苦みと唾液のぬめりが、乾いた喉を滑り落ち、五感が溶け合い、脳髄を溶かした。
それは、初めて触れる、成熟した男の、暴力的なまでの生命の味だった。
「身体に力が入っているね、もっと力を抜いて、リラックスしないと」
(経験豊富な須藤さんからすれば……男性経験のない私など、掌の上で踊る人形に過ぎない。それでも、いい。このまま、壊されてもいい。)
思考は真っ白な空白へと霧散し、ただ、絡み合う舌の感触だけが、狂おしいほどに鮮明だった。
「相当、喉が渇いているみたいだね。コーヒーよりもビールの方がいいかな?」
確かに、淹れてもらったコーヒーには一口も口を付けてなかった。
彼は立ち上がり、冷蔵庫から缶ビールとグラスを取り出した。
そして、グラスにビールを注ぎ、ささやかな乾杯と共に、お誕生日を祝った。
グラスに注がれた黄金色の液体が、乾ききった私の喉を湿らせる。
喉を潤す冷たい液体が、私の高ぶった神経を、どこか遠くへと連れ去っていく。
「お、お誕生日おめでとうございます……」
乾杯の音が小さく響き、彼は静かに微笑んだ。
「うん、優子、ありがとう、気持は十分伝わっているよ」
その言葉は、慈愛に満ちた救済であると同時に、残酷な宣告でもあった。
“十分伝わっているよ”
その短い言葉で、私は悟った。
(自分がここに来た意味も、どんな覚悟で、何を捧げに来たのかも……全て、お見通しなのね……)
「優子、そう言えば、夕食は済んだのかい?私は食べ終えているんだけど……」
「う、うん……食べてきた」
(嘘だった。緊張のあまり、空腹など感じていなかった。)
空腹を無視して流し込んだビールが、酔いと共に、私の理性を急速に溶かしていく。
酔いが回るにつれ、緊張は溶け、代わりに甘い酩酊が全身を包む。
グラスが空になりかけた頃、私を再び抱き寄せ、耳元で、地獄の底から響くような、甘く、冷酷な声で囁いた。
「優子、いつもと違う雰囲気なのは……大人になりに来たんだね?」
その耳元での囁きに、私は、抗えぬ運命への承諾として、コクリと深く頷いた。
再び、唇が重ねられ、舌が深く絡まる。
絡み合う唾液の淫らな音が、部屋に淫靡に響いた。
右手がブラウスの上から乳房を包み、柔らかく揉みしだき、やがて布地の中に滑り込む。
乳房を捉え、逃げ場を奪う愛撫は、止まることを知らない。
不意に、ブラウスの中に侵入した指が、すでに外されていたブラのホックを通り越し、指先は敏感な乳首を執拗に蹂躙していく。
(いつの間に……っ……)
「ん、んぅう……っ!」
吐息が漏れ、全身の血が頭に上る。
逃げ場のない快楽が、脳髄を、脊髄を、熱い血液と共に駆け巡る。
幼い頃から自ら痛めつけてきた乳首が、彼の指で優しく転がされるたび、甘い電流が背筋を駆け下りる。
酔いと、期待と、羞恥。
それらが混じり合い、身体の隅々にまで熱い血液が駆け巡る。
夢のような浮遊感に溺れている中で、次に襲ってきたのは、パンティー越しに押し当てられる、逃れようのない強烈な圧迫感だった。
肉体が本能的に反応し、咄嗟に脚を閉じようとした瞬間、彼の逞しい手が私の太腿を鷲掴みにし、無慈悲に、かつ強引に割り開かれた。
「力を抜きなさい、いいね」
「は、はい……っ」
頭に集まった熱い血液が、今度は、最も秘められた場所へと、奔流となって一気に集まり始めた。
羞恥と快楽が混濁し、私の肉体は、自身でも制御不能なほどに熱い粘液を溢れさせ始めた。
(どうしよう……この感覚、気持ちがいいのに……このまま、どこまでも堕ちていくのが、怖い……でも、壊れてもいい。)
「ここが、随分、熱くなってきたね、感じている証拠だよ」
耳元で囁かれる言葉責めは、肉体の真実を暴く、冷酷な宣告だった。
全身の力が、するりと抜け落ち、私の”ハァハァ”と言う呼吸は獣のような荒いものへと変容していく。
「どんな風になっているか、そろそろ確認してあげよう」
彼は、冷酷な観察者の瞳で、パンティーの上から指で秘部を愛撫し、肉壁の熱を直接的に突き止める。
片方の足首まで、無情にパンティーが引き摺り下ろされていく。
私の肉体は、羞恥と歓喜の狭間で、激しく波打っていた。
そして、露わになった秘部を、指が執拗になぞり、溢れた蜜を掬い取る。
指を広げ、指先に絡みつき、糸を引く粘液、あえて私の目の前で見せつけた。
「いやっ」
羞恥に耐えかね、顔を背ける私に、逃げ場を与えぬよう、冷酷な命令を突きつける。
「優子、ちゃんと見なさい」
逃げようとする私の意志を、冷酷な命令が挫き、屈服させる。
彼は、その指を自らの鼻へと運び、匂いを深く吸い込み、さらに、口に含んで艶めかしく舐め上げた。
その仕草一つ一つが、私の羞恥心を、甘く、残酷に蹂躙した。
その背徳的な光景に、私の精神は、もはや、抗う術を持たない従順な肉塊へと変貌していった。
「少し酸味のある味は興奮している証拠だ、匂いも大人の女の匂いだよ」
言葉の棘が、精神の防壁を粉々に砕き、私を、ただの一人の「所有物」へと変容させていった。
抵抗の気力は消え、身体はただ、流れに身を任せるしかなかった。
指が再び秘部を割り、蜜を塗り広げる。
熱く濡れた襞が、指一本を受け入れる、続いて二本。
彼の手が、私の背後に回る。
ミニスカートのホックとファスナーが、無慈悲な音を立てて緩められ、まるで重力に従うように、容易く滑り落ちた。
足首に纏わりついていたパンティーも、無造作に引き剥がされ、私の肉体には上半身の布地だけが残された。
無防備な姿を晒した私は、もはや、支配者の祭壇に捧げられた、生贄の供物でしかなかった。
大好きな人に抱かれる喜びが、恥ずかしさを凌駕していた。
そして、真の「大人」へと変貌させられることへの、狂おしいほどの期待。
自然と、秘部は熱く濡れ、甘い疼きが腹の底を蝕む。
それらが混濁し、もはや羞恥などという感情は、霧散していた。
「さあ、そろそろ、ベッドの部屋へ行こうか、優子」
肉壁の裂傷と、白濁の洗礼
スカートとパンティーという、日常の残骸をソファーに置き去りにしたまま、私は、逃れようのない運命の深淵へと、導かれて歩みを進めた。
廊下の冷たい床が足の裏を刺し、運命の拘束具のように私を導く。
寝室のドアが開くと、そこには大きなベッドが、一切の乱れもなく整えられていた。
部屋の隅で灯る間接照明だけが、これから行われる儀式の祭壇を、妖しく照らしていた。
(どうして灯りが……?もしかして、私が来ることを知っていたの……?)
ベッドルームの扉が閉まる音が、静謐な狂気の始まりを告げた。
「優子、もう、心の準備は出来ているね?」
彼の瞳は冷たく、しかし歪んだ愛情を湛え、私のすべてを飲み込もうとしていた。
拒絶する言葉など、もはや私の喉には残っていなかった。
コクリと震える頷きだけが、私の意志のすべてだった。
迫りくる痛みと悦びの狭間で、私の身体はすでに、処女の蕾を自ら開こうと震えていた。
暗闇に潜む意図を察し、私は、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
彼は部屋着を脱ぎ、上半身は裸、下半身は下着のみという、その無防備な姿で仰向けに横たわった。
私の戸惑いを見透かしたように、彫刻のような肉体を晒した。
その肉感的な身体を前にして、私は、生贄として祭壇に捧げられる生贄のように、その身を差し出した。
「優子、そこにずっと立っているつもりかい?さぁ、こっちへおいで、、、」
そう言って、私をベッドへ上がるように、手招きをしました。
恐る恐るベッドへ上がり、須藤さんの傍らへ。
「父親以外で、初めて男の裸を目の前にした気分はどうだ?」
彼は静かに言った。
「当然、男の肌に触れるのも初めてなんだろう?」
その問いは、私の魂の深淵を、容赦なく抉り出した。
「さぁ、優子の好きなように触れてみなさい、そして、好きなように味わってみなさい、いいね」
25歳にもなって男性経験の無い私が、親友から教え込まれた、卑俗で、しかし切実な奉仕の記憶が、酔いの中で蘇る。
(今日、抱かれるために、何をすればいいか……たくさん教えてもらったんだ……)
親友から教わった言葉を、はしたない奉仕の技術を、震える指先で、無我夢中に、けれど一心不乱に捧げ始めた。
私は、教わった通りに、跪き、足先から、指の一本一本を、慈しむように、あるいは狂ったように口に含んでいった。
右足から左足へ、そして、また、右足へと、狂信的なまでの執着を持って舌を這わせていった。
全ての指をキレイに舐め終え、足首、ふくらはぎ、太腿と、徐々に場所を変えていった。
(はしたない女だと思われていないだろうか……)
時折、恐る恐る視線を上げると、そこには、暗がりの中で、満足げに私を見下ろす彼の姿があった。
太腿までを舐め終えると、私は厚い胸板に頬を寄せた。
肉の味、肌の熱、男性特有の獣じみた体臭を深く吸い込む。
力強くも、どこか懐かしい体臭が鼻腔を突き、恐怖は安堵へと、甘美な陶酔へと変容していく。
(あぁ、この匂い、肌の味、全てが愛おしい……)
全ては、ただ好きな人に奉仕したいという、純粋な想いだけだった。
でも、次に進めない、その先は未知の世界だったから。
今まで無言だった彼が、急に口を開いた。
「他にも舐めたい場所があるんだろ?さぁ、やりたいようにやりなさい」
その中を覗いてみたい、触れてみたい、でも何故か怖かった。
(私が何かを躊躇している様は、言葉など無くとも伝わっていた……)
震える手で、彼の下着に手を掛け、ゆっくりと、それを引き下ろす。
間接照明に照らされた、男性器。
薄暗い部屋の中、「それ」を、私は芸術品を見つめるような眼差しで見つめた。
まるで神殿に鎮座する芸術作品のように、静謐な威厳を放っていた。
「優子、どうだ、初めての男性器は?想像していた通りかい?」
柔らかく横たわるそれに、恐る恐る触れる。
震える指が、その隆起を確かめる。
大きさ、硬度、間近に迫る熱量。
全てが、私の想像を遥かに超える、生命の重みを持っていた。
直ぐにでも口に含みたかったが、高鳴る気持ちを抑え、握った男性器を丹念に観察した。
(確か、こうやるんだった……)
ゆっくりと上下に動かし、睾丸を優しく愛撫する。
右手の中で少しづつ隆起していく感触に、私の理性が決壊した。
「舐めてもいいですか?」
震える声で、願いを口にした。
その問いは、もはや懇願でもあった。
「心の底から、望んでいるのだな?だったら、好きなようにしなさい」
「あっ、ありがとうございます」
顔を近づけた瞬間、鼻腔を突き抜けたのは、濃密な大人の男の芳香であった。
舌先で、先端の孔を転がし、大きく口を開けて喉の奥まで含む。
初めて味わうその味は、少しの塩気と、ほろ苦い官能を孕んでいた。
私は、覚悟を決め、未完成な「それ」を迎え入れた。
そして、ゆっくりと喉の奥まで挿入した途端、彼の口が開いた。
「優子、歯が当っているぞ!もっと、口を大きく開きなさい」
「ふぁい」
男性器で塞がれた口から漏れたのは、言葉にならない呻きと、溢れ出す唾液。
私の小さな口は顎が外れ、裂けてしまうほどに大きく開かれた。
歯が当らぬように、工夫をしながら、上下に頭を動かし続けていった。
「そうだ、それでいいぞ、その調子だ」
「そこから手は離して、口だけでやりなさい」
頭を押さえられ、唾液が溢れ、涙と鼻水が頬を伝う。
慈悲深い、けれど拒絶を許さないエスコートに導かれ、私は、溺れるように奉仕し続けた。
喉の奥底に当たる男性器で呼吸が塞がれた。
顎は麻痺し、ルージュの赤を汚し、目からは涙が、鼻からは鼻水が、無残に顔を汚していく。
“ヌチャ、ヌチャ”と、肉と粘膜が狂ったように絡み合う淫靡な音が、静謐な寝室に木霊する。
けれど、その苦悶の表情さえも、彼の瞳には、至高の奉仕への情熱として映っていた。
言葉に発せずとも、私は彼の心情を理解していた。
呼吸すら奪われた口内で、私は、自らの肉体が、彼の欲望という熱源によって、再構築されていくのを感じていた。
(拙い私のフェラチオで気持ち良くなって下さい……)
どれ位、そうしていただろう、顎は完全に麻痺をしていた。
涙と鼻水、そして、口から溢れた唾液が混ざり合い、次第にシーツに淫靡なシミを作っていった。
「そろそろ、疲れたろう、そのまま顔を上げてみなさい」
言われるがまま、男性器から口を外し、顔を持ち上げた。
口から解き放たれた時、私の顔は無残に汚れ、まるで叱責に泣き叫ぶ子供のようであった。
そして、それをあやすように、情愛を孕んだキスをした。
ルージュの色を忘れた唇を力強く塞ぎ、溢れんばかりの唾液を舌で絡め取っていった。
「ここを触ってごらん。もう、分かってるな?」
口に含んでいた時とは違い、直に手で触れると、圧倒的な存在感を突きつけてくる。
(タンポンでさえ入れられなかったのに、これを入れるなんて……)
「あとは、優子の気持ち次第だ」
思考は明晰に、酔いは霧散していた。
しかし、身体は、祭壇に捧げられる生贄のように、自らベッドに仰向けになり、大人への儀式を受け入れる準備を整えていた。
彼の影が覆い被さるのを、甘く恐ろしい予感と共に待ち受けた。
それは、私の人生における、最も美しく、最も残酷な、処女喪失の儀式であった。
頭の中では、期待と不安が入り混じり、顔なんて直視できる訳が無かった。
そして、ついに、その瞬間が訪れる。
「膝を立てて、大きく脚を開きなさい」
無慈通な命令。
誰にも見せたことのない、自分自身の最も醜く、最も秘められた肉壁を、さらけ出す屈辱で、思わず顔を背けてしまった。
膝の辺りに、手の感触を感じ、力の抜けた脚を限界まで強制的に広げられた。
されるがままの私は、目を瞑り、頭の中で想像する事しかできなかった。
身体が、びくびくと波打ち、内壁が、きつく締めつける。
「ンッ、ンン」
恥ずかしいのに、微かな声が自然と漏れてしまった。
(気持ちいい……)
「優子、すっかり濡れ切っているな、フェラチオだけでもこんなに濡らすのか」
「お尻の穴の方まで垂れてきているぞ!」
でも、返事は出来なかった、ただ、頭の中で返事をする事しかできなかった。
(はい、舐めただけで、自分がどんどん興奮していました……)
(ずっと、昔から、思い描いていたSEXが、ついに現実になるのだから……)
「優子のココは、すっかり欲しがっているみたいだな」
「入れやすいように、もっと自分で広げなさい!いいな」
恥部を自らの手で広げ、痛みを感じながらも、一度も経験した事の無い位、肉壁を限界までこじ開ける。
(この痛みも、すべて……あなたへの純愛……)
「それじゃぁ、穴がどこにあるのか分からないぞ、もっとだ!もっと広げなさい」
「そうだ、それでいい、そのまま、広げていろ」
恐怖と期待が、私の精神を、極限まで引き絞る。
(怖い……でも、口したら、嫌われかもしれない……だから、好きにして……)
「入れるからな、いいな?」
「お願いします……っ、でも、コンドームを……してください……っ」
避妊を懇願する私の細い声は、彼の支配的な沈黙にかき消された。
硬く昂った熱の楔が、私の恥部に触れた瞬間、私の身体はびくりと跳ねた。
「ほら、先端が入ったぞ、あと、もう少しだ」
先端が押し入り、膣口が引き裂かれる痛みに、眉を寄せ、歯を食いしばる。
(来る……処女を、失う……痛いって、聞くけど……須藤さんのものになるなら、痛くてもいい……すべてを、捧げたい……)
「ゴ、ゴムを……」
苦痛を感じながらも、再度、避妊を懇願した。
その声さえも、彼の欲望という濁流に飲み込まれ、無音の破裂音と共に、処女の膜は無残に蹂躙された。
「イッ……い、たぁい……っ!」
突然、ブチッという何かが破裂するような、絶望的な感触が脳裏に響いた。
それは、鈍器で頭を殴打されたかのような、肉体的な蹂躙であった。
その肉の裂け目から、熱い質量が、肉を押し広げながら侵入してきた時、私の世界は、鮮血の色に染まった。
熱い楔が膣口を押し広げ、狭い処女膜を押し広げ、ゆっくりと侵入してくる。
鋭い痛みが下腹部を貫くと、目から、涙が一筋こぼれる。
「まだ、三分の一だ、残りは、一気にいくぞ!いいな」
低く、しかし重い声。
三分の一でさえ、想像を超える痛み。
(痛い……裂ける……でも、嬉しい……私の初めてを……この痛みの中に、愛が……)
だが、その激痛の極致において、私の内側では、別の何かが爆ぜていた。
(ああ……これで、私は、私のものじゃなくなるんだ……)
悪魔の囁きに、悲鳴さえ上げられず、ただ、硬直した肉体でその痛みに耐え忍ぶしかなかった。
「あっ……!」
「ンッ、ん~ん」
残りを一気に押し込まれ、異物の侵入を跳ね除けようと、咄嗟に脚を閉じるが無力だった。
肉壁が引き裂かれ、子宮の深淵までが異物の侵入に悲鳴を上げる。
「んぐぅ……っ!」
私の身体が弓なりに反る。
痛みと、未知の充足感が混じり合う。
彼は動きを止め、痛みの波が引くのを待つように、深く、深く腰を沈めていき、やがて根元まで埋まった。
送出を繰り返すたびに、その痛みは増していき、狭い肉壁から膣を伝わり子宮の深奥へと突き刺さる。
全身がマネキンのように硬直し、思考は停止し、ただ、子宮まで響く鈍痛に、意識が遠のく。
多汗症の肌が、彼の胸に密着する。
乳首が擦れ、秘部が楔を締め上げるたび、私は小さく喘いだ。
「はぁ……はぁ……、須藤さん……、須藤さん……」
無言の時間だけが流れていった。
彼の絶頂が近づくにつれ、私の内腿が痙攣し、失禁に近い蜜が溢れ出す。
「出すぞ、いいな」
その言葉で、一瞬、意識を揺らした。
「いやっ! あっ、あか、ちゃんが……っ!」
恐怖に震える私の懇願に対し、冷酷な慈悲をもって、その行き先を決定づけた。
「そうか、だったら、どこに出せばいい、口に出すか?」
「はっ、はい……お口に、ください……っ」
避妊の知識が皆無の私にとって、そう答えるのが精一杯だった。
私の返事と共に、その動きは、狂乱の極致へと加速した。
「口を開けろ、いくぞ、いいな」
「ハァ、、、ハァ、、、」
ベッドが軋み、激しい突き上げの後、今まで膣内をかき乱していた男性器が、私の小さな口を目掛けて押し入ってきた。
(あっ……!中……熱い……)
「優子、まだ、飲み込むなよ」
喉の奥を突き上げる熱い濁流が、何度も、何度も、喉を満たす。
目一杯に開けた口内に溢れ、喉を灼くような、精液の味。
呼吸すら忘れ、私はただ、彼が放つ生命の味を受け入れ続けた。
「よし、全部出たから、口を開けて中を見せなさい」
口を開け、鼻で呼吸をすると、精液の独特な匂いが、喉の奥底から鼻腔へ逆流していった。
「たっぷりと出してあげたのだから、しっかりと、いいな」
「そうだ、そうやって、何度も咀嚼して、味わってみなさい」
口腔に纏わり付く粘液を咀嚼し、まるで聖餐を扱うかのように、一口、また一口と、味わいながら飲み込んでいった。
「ココはな、これからも優子を気持ち良くさせてくれる大切なモノだ、終わった後は必ずキレイにするのを心掛けなさい、いいね」
(もう、分かっていた、親友からも同じ事を聞かされていたから……)
そして、鮮血と愛液に染まった男性器を、唇で優しく包んでいく。
交尾の残骸さえも、彼への奉仕として、一滴も残さず、丁寧に清める。
精液の独特な味の向こう側に、鉄の味が混じった、生々しい「生」の味がした。
「全部、飲んだのか?口の中を見せてごらん」
「は、はい……」
汚辱の底で、私は、かつてないほどの、至高の充足感に包まれていた。
空になった口の中を見せようとした途端、再び私を覆い隠した。
唾液と粘液が混ざり合う口腔を、舌が優しく掻き回す。
いつしか、秘部の痛みは薄れ、倒錯的な充足感へと変容していた。
(大人に成れた……痛かったけど、嬉しかった……ありがとう……。痛かった。けれど、嬉しかった。)
複雑な感情が涙を誘い、自然と頬を伝った。
私の震える身体を強く抱きしめ、髪を優しく撫でた。
「相当、痛がっていたね」
「うん、少しだけ……」
「泣いていただろ?」
「ううん、大丈夫……」
(私が望んだ事だから……どうか、心配しないで……これで、私は永遠に……)
私は確かに、須藤さんの所有物となった。
少しの沈黙の後、私の頬の雫をそっと拭った。
「そろそろ、シャワーを浴びてきなさい」
「ううん、まだ……もう少し、こうしていたいの」
「血、こんなに、出たんだな」
血に染まったシーツを指し、静かに言った。
ベッドのシーツに、私の処女の血と、二人の体液が、静かに染み込んでいった。
「ごめんなさい、シーツ、汚してしまって……私、持ち帰って洗ってきます」
「そんな事は必要無い、そうだな、だったら、もう少し、このままでいよう」
「う、うん、、、」
私は、彼の大きな胸に顔を埋めながら、止まらぬ涙と共に、自身の暗い深淵――あの物置での、悍ましい記憶――を、すべてを語り始めた。
それは、幼い頃から私を縛り続けてきた、あの悍ましいトラウマを、光の下へと解き放つための、長い、長い、告白の儀式であった。
【純真の剥落と、堕ちゆく幼き魂の軌跡】
家族という名の聖域を越え、見知らぬ大人の男にその無垢な肢体を晒したのは、小学校三年生、初夏の陽光が残酷なほどに輝いていた頃だった。
思春期の入り口に立ち、ようやく自身の内側に潜む歪みを知った時になって、私はその記憶の断片を――吐き気を催すほどに悍ましい、暗黒の原風景として――思い出すことになった。
それは私の意志など微塵も介在しない、魂を内側から抉り取るような、抗い難い蹂躙の記録であった。
共働きの両親が不在にする、静まり返った団地の日常。
遠くから、孤独に遊ぶ私を、獲物を見定めるかのような眼光で見つめていた、あの男の存在。
日が傾き、世界が黄昏の色に染まりかける頃、いつもの公園で遊んでいた私の背に、その男の、粘りつくような声がかけられた。
「公園を掃除するから、一緒に手伝ってもらえないかな……?」
同じ団地内に住む、顔も名前も知らぬ中年男性。
無邪気な幼子であった私は、その言葉を、何の疑いもなく、男が差し出す、救いの手として受け取ってしまった。
男に誘われるまま、私は団地の隅に鎮座する、清掃用具が保管された、錆びついた物置へと足を踏み入れた。
重い扉が、軋んだ音を立てて開かれ、埃と沈黙が支配する、狭く、暗い、お化け屋敷のような閉塞感に満ちていた。
「一緒に道具を探してほしいんだ」
突然、「ガチャン!」と、扉が閉まる音が、静寂を暴力的に切り裂いた。
直後、背後から襲いかかってきた、大人の男の、湿った、重苦しい肉体が、私に覆い被さる。
恐怖に支配された肉体は、石のように硬直することさえ許されず、ただ、凍りついていた。
(殺される……っ!身体が動かない……!……逃げなきゃ……逃げなきゃ……助けて……!)
助けを呼ぶための叫びさえ、喉の奥で霧散してしまう。
「何もしないから、心配しないでネ」
その男の、どこまでも平坦で、嘘に満ちた言葉を最後に、記憶の断片は、濁流に流されるように薄れていった。
気が着いた時には、その男と手を繋ぎ、無機質な団地の階段を、亡霊のような足取りで歩いていた。
ただ、時間が、無慈理に過ぎ去っていった。
その後も、見知らぬ中年男性との、あの不浄な「遊び」は、小学校四年生になっても続いていた。
それは、清掃用具の物置、あるいは、男の所有する車の中、そして、何よりも、最も頻繁に行われたのは、――男の家という、逃げ場のない密室であった。
その男は、小学生の私に対し、成人向けの雑誌や、淫らな映像を、幾重にも重ねて見せつけては、「あーでもない、こーでもない」と、卑猥な言葉を弄して、詳細に語り聞かせるのが癖であった。
幼い私の理解を超えた、その言葉の、何が、どのような行為を指しているのかなど、さっぱりとは分からなかった。
けれど、目に焼き付いた画面の中で、蹂躙される女性たちの、苦痛と恍惚が混じり合った表情に、私は、無意識のうちに、魂の深淵から感情移入をしていたのだ。
ある日のこと、いつものように、その男の家へ招かれ、淫らな儀式が始まろうとしていた。
その頃には、自ら服を脱ぎ捨て、下着姿になることは、私にとって、日常的な儀式となっていた。
男の指が私の下着に掛かり、無情に引き下げられ、無毛な恥部を晒け出した途端、男の顔色が変わった。
「生理、始まったんだネ」
「……うん」
「今日は、止めておこうか」
「…………」
言い訳すら用意せぬ、無機質な拒絶。
何がいけないのかさえ理解できぬまま、私はただ、立ちすくんでいた。
「今日は、もう帰りなさい、また、今度、遊ぼうよ」
男は、まるで用済みになった道具を捨てるように、私を帰した。
その日を境に、男からの誘いは途絶えた。
その後は何もなく、私は中学生になった。
「この辺で、変質者の男が捕まったんだって、アンタも気を付けなさいよ」
ある夜、母親から世間話のような、不吉な予兆を聞かされた時、私の心には恐怖よりも、むしろ、冷ややかな諦観が宿った。
「は~い、分かったわ……」
(その男は、あの中年男性に間違いない……、でも、何も感じない……)
恐怖すら、私の魂には届かなかった。
異性に興味を持ち始めたクラスの女子たちが、男性アイドルや歌手の話題で華やかに盛り上がる中、私はその輪には、決して加わることができなかった。
あの忌まわしい過去が、私の精神における、見えない、しかし決定的な隔たりを生んでいたからだ。
自分自身の恥部を、自らの指で慰める術を覚えたのは、あの男性との「遊び」が切っ掛けであった。
それを「オナニー」という言葉で定義したのは、中学生になってからだった。
それまでの私は、あの中年男性との、暗く、湿った記憶を頼りに、肉体の疼きをなぞることでしか、自慰を耽ることはできなかった。
今でも、脳裏に焼き付いて離れないのは、暗い物置の中で、あの男に乳首を激しく吸われながら、秘部を執拗に弄り回された感触だった。
それ以来、男との遊びが無い日でさえ、私は人気の無い場所を探しては、自らを慰める孤独な獣へと変貌していった。
中学三年生、クラス替えを機に、後の親友となる女性と出会ったことが、私の人生をさらに、未知なる妄想の深淵へと引きずり込んでいった。
成長し、肉体が女性として成熟していく一方で、私の精神は、常に、あの暗い物置の、湿った空気の中に留まったままだった。
高校生になり、電車通学を始めると、ほぼ毎朝、誰かしらに肉体を蹂躙されるような、痴漢に遭うことが日常となっていた。
親友にだけは、その忌まわしい過去を打ち明けていたが、彼女からは「優子は隙だらけだよ」と、冷笑的な言葉を投げかけられるばかりであった。
そんな、自身への嫌悪と、閉塞感。
高校一年生の夏休み。
私は、自分を変えようと、あるいは、自分という存在を、社会の闇へ、もっと深く、美しく、埋葬するために、髪を明るく染め、化粧を覚えた。
それらすべてを、自分が「堕天使」へと堕ちていくための、必要なプロセスであるとさえ、感じ始めていた。
私は震える指で須藤の腕に、かつての中年男性が私に教えた、淫らな世界を注ぎ込んでいった。
それら全てを語り終えた時、私の瞳には、もはや絶望ではなく、すべてを受け入れた者特有の、静謐な諦観が宿っていた。
「そうか、良く話してくれたね、辛かっただろう?」
「うん、でも、今は気にしていないよ……もう、昔の事だから……」
「須藤さん、こんな変な話を聞いてくれて、ありがとう」
「こちらこそ、親にも相談できなかった過去を、私だけに話してくれて、感謝するよ」
彼の指が、私の頬を伝う雫を、慈しむように拭った。
窓外では、小鳥がさえずり、新しい朝の光が差し込み始めていた。
(こんなに汚れた女でも、全てを受け入れて貰えた幸せが、ここにある……私の居場所が、ここにあった……)
堕天使へと堕ちていった私は、今、支配者の腕の中で、真の救済を見出していた。
それが、やがて、須藤さんの奴隷になる覚悟だと知るのに時間はかからなかった。
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